(2020.08.23 5 の項追加)
(2020.05.10 更新)
(2016.11.15 1 の項更新)
技術士試験 (3)口頭試験合格法、合格率、不合格理由
(本ページは総監以外の部門の口頭試験についてのみ記載しています。)
総監の口頭試験は こちら
総監以外の部門の筆記試験は こちら
1. 口頭試験の概要
1.1 口頭試験の手順
総合技術監理部門(以下、これを「総監」と称します。)以外の部門の口頭試験の手順は、総監の口頭試験のそれとほぼ同様ですので、
「総合技術監理部門口座 (4)口頭試験合格法」(以下、これを「総監口頭」と称します。)の1.1.1 に記したのでそちらを御覧ください。
1.2 口頭試験における試問事項(質問内容)
総監以外の部門の口頭試験における試問事項(質問内容)は、
「総監口頭」の1.1.1、(3) に記したのでそちらを御覧ください。
1.3 口頭試験の合格率と不合格の原因
総監以外の部門の口頭試験の合格率と不合格の原因は、
「総監口頭」の1.2 に記したのでそちらを御覧ください。
2. 業務経歴票への対応
総監以外の部門の業務経歴票への対応は、
「総監口頭」の 2.1 に記したのでそちらを御覧ください。
3. 業務詳細への対応
3.1 業務内容の再記憶
「技術士試験の概要」の 2 は「口頭試験は、」「業務経歴を踏まえ実施する」としている(2、(2) の項)ので、受験申込書の「業務内容の詳細」欄に書いた内容(以下、これを「業務詳細」と称します。)は口頭試験の対象となります。また、ずっと以前の業務については部分的に忘れている可能性があります。したがって、業務詳細に記入した業務の報告書を読み返すなどして、その実施期日、業務数量、試験値、設計値、結論、成果、問題点など主な事項をよく思い出しておきます。
3.2 業務詳細の説明の練習
(1) 業務詳細の説明の練習の必要性
業務詳細を説明するように求められることがあるので、説明の練習をしておきます。この説明は業務詳細に書いた業務を本当に受験者が自分で行ったのかどうかを確認するために行うものですが、受験者の側からすると自分が技術士に相応しいプレゼンテーション能力を有していることを示すよい機会ですのでしっかりと説明します。したがって、分かり易く感銘深い説明を行うために、説明の練習をしておくことが必要と思われます。
(2) 業務詳細からの離脱
まず説明の仕方全般ですが、覚えておいた業務詳細をそのまま読み上げるような説明をするのではなく、業務詳細の文章を全面的に離れ、全面的に話し言葉に置き換えて、業務詳細に書いてあっても不要箇所は省略して、業務詳細に書いてなくても必要なことは追加して、業務詳細の重要箇所はより詳しく分かりやすく、声の抑揚・声の大小・話す速さ・間(ま)の取り方などに注意して聞き取りやすく、熱意が感じられるように、表情豊かに、説明します。つまり、試験委員が聞いただけで「ほー、そうなの。よく分かった。いいねえ。」と思えるように説明します。
(3) わくわく感の付与
単に問題点、提案、成果を順に説明するのではなく、「(ア) この業務には○○という大きな問題点(「問題点」とは何かについては
「技術士第二次試験講座 (1)受験申込書の書き方」(以下、これを「第二次申込書」と称します。)の2.2、(3)、(a)、(イ)、
同、2.2、(3)、(c)、(イ) を御覧ください。)があり事業に大きな影響が予想された。(イ) 私はこの問題の解決のために 5 つの解決案を検討したが、これらの解決案については○○の不安があった。(ウ) この不安を解消しいずれが最善の解決法であるかを確定するために○○の詳細検討(又は、○○試験、○○解析、○○現地調査など)を実施した。(エ) その結果が○○であったので最も重要な点は○○であると判断し、この判断に基づいて第 1 案が最善の解決法であると判断した。(オ) この第 1 案に基づいて業務を実施し○○の成果を得ることができた。」のように、問題点の発見から成果の確認までの流れを要点を外さないように詳しく述べます。
このように述べると、「○○の問題点があり事業に大きな影響が予想された。」までを聞いた試験委員は「ほう、それは困ったね。それで解決方法は見つかったのかね。」と話の続きを期待し、あるいは「自分ならこうするね。」と自分自身の解決案を考えます。つまり、受験者の話に興味を引かれ、乗ってきます。そして、「これらの解決案については○○の不安があった。これを解決するために○○の詳細検討を実施し、その結果が○○であったので最も重要な点は○○であると判断し」までを聞いた試験委員は「なかなか面白いことを考えるね。」と思い、あるいは「それは間違いだ。自分ならそんなことはしないね。」と思い、ますます乗ってきます。つまり、わくわく感で一杯になります。こうなれば、しめたものです。試験委員は受験者の説明を一所懸命聞いているので、説明内容をよく理解してくれます。そして、最後の「○○の成果を得ることができた。」を聞いた試験委員は「あっぱれ。よくやった。」と思い満足します。このわくわく感が満足感をもたらし、満足感が受験者に対する高い評価をもたらすことは明らかと思われます。
以上から明らかなように、わくわく感を持たせるために最も重要なことは、(ア)事業に大きな影響が予想された、(イ)この問題の解決案については○○の不安があった、(ウ)この不安を解消し最善の解決法がいずれであるかを確定するために○○の詳細検討を実施した、の 3 点を明確に述べることです。特に (ウ) は核心ですので、最善の解決法がいずれであるかを確定するには何が重要であると考え、何を詳細検討手法として採用し、それについて利害関係者との合意をどのようにして形成し、詳細検討結果をどのように判断したかなど、詳細検討実施理由と実施結果の素晴らしさとがよく分かるように明確に述べます。受験者が困難な問題に立ち向かい、悩み、解決策を模索する姿はこの 3 点に凝縮されます。その姿が、わくわく感をもたらし、「成果」が技術士合格とするに相応しいものであると試験委員に感じさせると思われます。
したがって、わくわく感は、「成果」の内容をよく理解してもらうためにも、「成果」に高い評価をもらうためにも、必要不可欠と思われます。
また、以上から明らかなように、自己技量成果(
「第二次申込書」の 2.2、(3)、(c)、(ア))の説明の中心は、自己技量成果の内容(つまり、どのような成果を得たか)を説明することにではなく自己技量成果を上げた過程を説明することに置きます。語弊を恐れず言うなら、自己技量成果の内容の説明に全説明時間の 1 % を、過程の説明に同 99 % を当てます。なぜなら、技術士に相応しいか否かは成果の内容やその大小によって判断されるのではなく成果を上げた過程によって判断されるからです。また、成果を上げた過程がわくわく感をもたらすからです。
なお、わくわく感を持たせるように説明するためには業務詳細がそのようにできあがっていることが必要です。そのような業務詳細の書き方については
「第二次申込書」の 2.2、(3) を御覧ください。
(4) 理解不足の解消
試験委員が理解しているかどうかをその表情やしぐさによって確認しながら説明し、疑問を持っているのではないかと思われたときにはすぐ補足説明をして疑問を解消します。
(5) 業務詳細への対応の明示
試験委員は業務詳細を見ながら説明を聞くと推測されますので、業務内詳細のどの部分の説明をしているのかを解説しながら説明します。
(6) 同一の術語の使用
全ての術語について、業務詳細に記述している術語と寸分違わない術語を用います。例えば、業務詳細で「元設計」という術語を用いた場合は、これを「元計画」、「原計画」、「原設計」、「当初計画」、「当初設計」などの術語で言い換えないで、最後まで「元設計」という術語を用います。これは、異なる術語を用いて説明すると、業務詳細のどの部分を説明しているのかが試験委員は分からなくなり、あるいは業務詳細に書いていることとは別のことを受験者が話し始めたのかと思い、試験委員は混乱し、いらいらが募るからです。受験者にとって大きな損失以外の何物もたらさないからです。
また、業務詳細に記述してない術語を口頭試験で新たに用いた場合も、最初に用いた術語と寸分違わない術語を最後まで用います。例えば、業務詳細に記述してない「調査地」という術語を口頭試験で新たに用いた場合は、これを「調査位置」、「調査箇所」、「調査場所」などの術語で言い換えないで、最後まで「調査地」という術語を用います。これは、異なる術語を用いて説明すると、別のことを受験者が話し始めたのかと試験委員は思い、混乱し、いらいらが募るからです。受験者にとって大きな損失以外の何物もたらさないからです。
(7) 同一の数値の使用
全ての数値について、業務詳細に記述している数値と寸分違わない数値を用います。例えば、業務詳細で「589 m2」という数値を用いた場合は、これを「約 600 m2」、「600 m2」、「5.89 a(アール)」などの数値で言い換えないで、最後まで「589 m2」という数値を用います。理由は上記 (6) と同様です。
また、業務詳細に記述してない数値を口頭試験で新たに用いた場合も、最初に用いた数値と寸分違わない数値を口頭試験の最後まで用い続けます。理由は上記 (6) と同様です。
(8) 数値の使用
説明は業務詳細に書いてないことを付加して詳しく説明しますが、この付加する事項は可能な限り数値で行います。例えば、「大きな値が得られた」ではなく「9.45 cm という大きな値が得られた」、「長期間を要した」ではなく「16 日間という長期間を要した」などのように説明します。これは、「大きな値が得られた」、「長期間を要した」などは単なる受験者の感想であり、そのようなものでは試験委員は業務詳細の妥当性を判断することができないからです。
(9) 筆頭著者である論文の紹介
もし、業務実施結果を論文にして発表している場合で、その論文を口頭試験の席上で紹介する場合で、かつその論文が共著である場合は、自分が筆頭著者である論文を紹介するようにします。これは、一般に、筆頭著者以外は責任者としてその業務全体を実施したとは認められにくいからです。
(10) 複数の説明時間による練習
説明のための時間を指定されることがあるのでその指定に柔軟に対応できるように、説明時間が 2 分、 3 分、 5 分、7 分の 4 ケース程度で練習しておきます。
(11)「勤務先における業務経歴」欄のみに書いた業務の練習
業務詳細に書いた業務ではなく受験申込書の「勤務先における業務経歴」欄のみに書いた業務について説明を求められることがあるので、これについても説明の練習をしておきます。「勤務先における業務経歴」は 5 欄ありますが、多くの場合に「勤務先における業務経歴の上から 3 番目の欄に書いてある業務について説明してください。」のように業務を指定して説明を求められるので、どの業務を指定されてもよいように、「詳細」欄に○印を付けてない 4 欄についても各欄から 1 業務(計 4 業務)を選んで業務詳細に書いた業務と同様の説明練習をしておきます。
3.3 質問の予測と解答の準備
上記
3.1、
3.2 を行う中で、業務詳細に関して口頭試験において質問されそうな事項を予測しそれへの解答を準備することは、
「第二次申込書」の2.2、(3)、(c)、(ス)、
同、(セ) と同様です。
3.4 反省点の準備
業務詳細に書いた業務に関して今振り返って見るとこうしておけば更に良かったと思われること(以下、これを「反省点」と称します。)を「業務内容の詳細」欄に記述するようにとの記述上の指示はないこと、業務詳細は 720 字という字数制限があることの 2 つのため、同欄には反省点については何も記述していないはずです。しかし、口頭試験においてはこれを質問される可能性があるので、質問にすぐ答えることができるように反省点をまとめておきます。
反省点は次の (1)、(2) の 2 点についてまとめておきます。
(1) 現在の技術レベルから見た反省点
これは、その業務を実施した時点では開発されていなかったがその後開発された技術、理論があるが、もし業務実施時点でそれを適用することができていれば更によい結果を得ることができたであろうという反省点です。このような反省点を述べるためには、業界誌、学会誌に日頃から接するなどして最新の技術情報を得ておくことが必要です。
(2) 不十分な取り組みに対する反省点
これは、業務実施時に十分な取り組みをしなかったことについての反省点です。所謂失敗についての反省点です。ただ、取り返しのつかない重大な失敗、当然予見できたのに注意不十分のためにしてしまった失敗、原因が自分のみにある失敗、自分の技術水準が低いために生じた失敗などは技術士として相応しくない失敗なので、そのような失敗は避けます。そのようでない失敗(比較的容易に回復できる失敗、予見不能な原因による失敗、原因が自分以外にもある失敗、自分の技術水準が十分高いにも関わらず生じた失敗など)について、失敗の内容、規模と影響範囲、原因、損失を最小限にとどめるために取った措置、同様の失敗を以後繰り返さないために取った措置などをまとめておきます。
試験委員は、多くの場合、(1)、(2) のどちらかを指定して質問しますので、どちらを指定されてもよいように両方の解答を準備しておきます。
4. 記述式問題答案への対応
4.1 答案の復元
「総監口頭」の1.1.1、(3) に示すように、記述式問題答案については口頭試験において試問されます。また、筆記試験の合否が発表された頃には記述式問題答案の内容をかなり忘れています。したがって、何はさておき、筆記試験が終わったらできるだけ早く(遅くても 1 週間程度以内に)、口頭試験に備えて
「技術士第二次試験講座 (2)筆記試験合格法 」の2.2.17 で作成したメモに基づいて記述式問題答案を復元することが大切と思われます。
4.2 質問の予測と解答の準備
記述式問題答案は、試験会場でぶっつけ本番で書いたものなので、如何によく推敲したものであっても試験委員が読めばよくない点が目に付きまた実際に多くの問題点を含んでいるはずです。また、記述式問題の解答に必要なデータは書籍、資料の中にあることが多いため、記述式問題答案は試験会場で資料もなく時間も限られた中で作成したものと自宅で存分に書籍、資料を参照して存分に時間をかけて最良の形で作成したものとの間には、通例、大きな相違点があります。
これらの問題点、相違点が、口頭試験において試験委員が不十分箇所として質問してくる事項であることは明らかです。試験会場ではどのように書くか迷わなかったが新規答案を書くときには迷った点があれば、それも試験委員が質問してくる可能性が高い事項です。
したがって、記述式問題答案への対応では 、試験終了後に自宅で記述式問題答案をもう 1 度全く新規に、必要な書籍、資料を存分に参照してかつ存分に時間をかけて、最良の形で書いて、この新規答案と
4.1 の復元答案を比較することにより、問題点、相違点、迷った点を手がかりにして口頭試験における試験委員の質問を予測し、それに対する十分な準備をしておくことが必要と思われます。
また、この準備にはもし可能であれば技術士の方の援助を仰ぐのがよいことは、
「第二次申込書」の2.2、(3)、(c)、(ス) と同様です。
また、技術士の方に相談したからといって安心するのは早計であること、この準備は最終的には自分でしかできないこと、自分で準備をするときに大切なことは「示すべき数値、数式、条文などを全て示しているか」などと細部に亘ってよくよく自問自答することであることも
「第二次申込書」の2.2、(3)、(c)、(セ) と同様です。
5. 「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」への対応
5.1 独立した評価項目
「技術士試験の概要」の 3 は「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」のそれぞれについて他から独立した項目として合否判定を行うとしている(2 第二次試験、2.口頭試験)ため、「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」以外が如何に優れていようとも「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」のいずれかが 60 % 未満であるとそれだけで口頭試験不合格となるので注意が必要です。
5.2 用語の意味
5.2.1 文部科学省が示す意味
文部科学省は次の (a)〜(d) の 4 つの用語の意味を次の『』内のように示しています(「
技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」(科学技術・学術審議会技術士分科会、2014)。以下、これを「技術士分科会(2014)」と称します。)。
(a)『コミュニケーション
・業務履行上、口頭や文書等の方法を通じて、雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等多様な関係者との間で、明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。
・海外における業務に携わる際は、一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え、現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。』
(b)『リーダーシップ
・業務遂行にあたり、明確なデザインと現場感覚を持ち、多様な関係者の利害等を調整し取りまとめることに努めること。
・海外における業務に携わる際は、多様な価値観や能力を有する現地関係者とともに、プロジェクト等の事業や業務の遂行に努めること。』
(c)『評価
・業務遂行上の各段階における結果、最終的に得られる成果やその波及効果を評価し、次段階や別の業務の改善に資すること。』
(d)『マネジメント
・業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程において、品質、コスト、納期及び生産性とリスク対応に関する要求事項、又は成果物(製品、システム、施設、プロジェクト、サービス等)に係る要求事項の特性(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)を満たすことを目的として、人員・設備・金銭・情報等の資源を配分すること。』
文部科学省はこれらの用語の意味を、筆者が調査した範囲内では、上記技術士分科会(2014)において初めて示し、以降、これ以外のいくつかの文書においても示しています。文部科学省はそれらのどの文書においても上記 (a)〜(d) と全く同じ意味を示しています。
これらを勘案すると、文部科学省は
「技術士試験の概要」の 3 においてもこれら 4 つの用語を上記 (a)〜(d) の意味で用いているのではないかと推測されます。
5.2.2 公益社団法人日本技術士会が示す意味
公益社団法人日本技術士会(以下、これを「日本技術士会」と称します。)も「コミュニケーション」、「リーダーシップ」、「評価」、「マネジメント」の 4 つの用語の意味を示しています(
「技術士試験の概要」の 5 の「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」の項)。
また、日本技術士会はこれらの用語の意味を、筆者が調査した範囲内では、
「技術士試験の概要」の 5 以外においては示していません。
5.2.3 意味の異同
「技術士試験の概要」の 5 が示す意味は技術士分科会(2014)が示す意味と全く同じです。ただ、前者は読点にコンマ「 ,」を用いているが後者は読点に「 、」を用いていることだけが異なります。また、当然ながら、前者の発行年は後者のそれである 2014 年よりも新しいです。
したがって、前者が後者の「 、」を「 ,」に変更したうえで後者を引用したものと推測されます。
5.2.4 意味の推測
以上を勘案すると、
「技術士試験の概要」の 3 はこれら 4 つの用語を技術士分科会(2014)が示す意味と同じ意味で用いているのではないかと推測されます。
5.2.5 意味についての留意点
技術士分科会(2014)が示す意味は、多くの場合、一般通常の意味とは大きく異なります。例えば、次のようです。
(a)「リーダーシップ」の意味を、「広辞苑第六版」(新村出、岩波書店、2008)は「①指導者としての地位または任務。指導権。「―をとる」、②指導者としての資質・能力・力量。統率力。「―に欠ける」」としておりこれが一般通常の意味ですが、技術士分科会(2014)は
5.2.1、(b) のようにしています。
(b)「マネジメント」の意味を、ISO 9001:2015 は「組織を指揮し、管理するための調整された活動。」としておりこれが一般通常の意味ですが、技術士分科会(2014)は
5.2.1、(d) のようにしています。
したがって、一般通常の意味に代えて技術士分科会(2014)が示す意味を理解、記憶して、口頭試験の席上においては技術士分科会(2014)が示す意味によく合致した解答をしなければ合格はおぼつかないと思われます。
ただ、口頭試験委員によっては、これらの用語を厳密に技術士分科会(2014)が示す意味で用いて厳密にその意味に対応する解答を求めるのではなく、これらの用語を一般通常の意味で用いて一般通常の意味に対応する解答を求める口頭試験委員もあるいはお見えになるかと推測されますので、口頭試験委員がどちらの意味で諮問しているのかを見極めて臨機に対応することが必要と思われます。
5.3 質問の予測と解答の準備
5.3.1 試問の基準の存在
「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」については、もしこれを知らなかったら不合格になる又は大きく減点されるという事項を記した文書(つまり、合否判定の基準となる事項を記した文書)(以下、これを「基準文書」と称します。)は、筆者が調査した範囲内では存在しません。例えば、次の (ア)、(イ) のようなことを記した文書は筆者が調査した範囲内では存在しません。
(ア) 技術士とは「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」についてどのような資質を有する者のことであるか。
(イ)「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」については、受験者は口頭試験に合格するためにはどのような知識、経歴、応用能力を有していなければならないか。
したがって、「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」については、「解答には必ず○○を含めなければならない。含めないと不合格になる又は大きく減点される。」という事項は存在しないと(つまり、確たる試問の基準は存在しないと)推測されます。
5.3.2 質問の予測
そのため、口頭試験においては一般的な質問に終始するのではないかと推測されます。例えば、「コミュニケーション」についてであれば次の (ア)〜(サ) のような一般的な質問に終始するのではないかと推測されます。
(ア) 技術士にとってコミュニケーションとは何をすることですか。
(イ) コミュニケーションにおいては何が重要だと思いますか。
(ウ) コミュニケーションについて、日常的にどのようなことに留意して業務を実施していますか。
(エ) 自分のコミュニケーション能力の向上のために、日常的にどのようなことに留意して業務を実施していますか。
(オ) あなたの専門とする分野において特に重要であると思うコミュニケーションは何ですか。
(カ) 客先、地元自治会、当該事業に反対する団体など、あなたの所属組織以外の組織とのコミュニケーションにおいては何が重要だと思いますか。
(キ) 業務詳細に書いた業務においてはコミュニケーションはどのように行いましたか。
(ク) 業務詳細に書いた業務において最も注意して行ったコミュニケーションは何ですか。
(ケ) 業務詳細に書いた業務以外の業務を 1 つあげて、その業務においてはコミュニケーションはどのように行ったか説明してください。
(コ) 業務詳細に書いた業務以外の業務を 1 つあげて、その業務において最も注意して行ったコミュニケーションについて説明してください。
(サ) これまでにコミュニケーションについて失敗した例を 1 つ挙げて、今後同様の失敗をしないために注意しなければならないと思うことを説明してください。
したがって、(ア)〜(サ) のような質問には何を解答しなければならないというものはなく、一般的かつ普通の解答であれば何ら問題ないと推測されます。
「リーダーシップ」、「評価」、「マネジメント」についても同様と推測されます。
5.3.3 解答の準備
しかし、「コミュニケーション、リーダーシップ」については他から独立した項目として合否判定が行われるため「コミュニケーション、リーダーシップ」以外が如何に優れていようとも「コミュニケーション、リーダーシップ」が 60 % 未満であるとそれだけで口頭試験不合格となるので、一応それなりの解答を準備しておく必要はあります。
「評価、マネジメント」についても同様です。
5.4 試問方針への対応
「技術士試験の概要」の 2 は「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」(以下、これらを「試問事項」と称します。)それぞれについての配点(つまり、試問事項別配点)を示しています。これに基づいて各受験者の試問事項別得点を判定する方法については、次の 3 つの試問方針が可能です。
(a) 試問方針 1
2〜
4 に示すような質問のみを通じて判定する。
(b) 試問方針 2
5.3.2 に示すような質問のみを通じて判定する。
(c) 試問方針 3
2〜
4 に示すような質問、
5.3.2 に示すような質問の両方を通じて判定する。
このように大きく異なる試問方針が可能である原因は次の (ア)〜(エ) の 4 つではないかと推測されます。
(ア)
「技術士試験の概要」の 2 は、試問事項別配点を示してはいるがどのような具体的質問を通じて受験者の試問事項別得点を判定するかについては示していないこと。つまり、
「技術士試験の概要」の 2 は、口頭試験において試験委員が上記 (a)〜(c) のどの試問方針を採用するかについては口頭試験委員に全面的に委ねていること。
(イ)
「技術士試験の概要」の 2 は「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」という用語を明示しているので、口頭試験委員としては心情的に (b) の試問方針を採用したくなること。
(ウ) 受験者の技術的水準・状態については受験申込書、筆記試験答案など多くの資料が試験委員の手元にあるので (a) の試問方針は採用しやすく、かつ (a) のような技術的質問を通じて受験者の「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」についての正確な判定を行いやすいこと。
(エ) 受験者の「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」の水準・状態については資料が試験委員の手元に全くないので (b) の試問方針は採用しにくく、かつ (b) のような一般的質問を通じてでは受験者の「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」についての正確な判定を行いにくいこと。
そのため、口頭試験における試問方針は試験委員によって大きく異なり、(a) を採用した試験委員は技術的内容ばかりを質問し、(b) を採用した試験委員は「コミュニケーション、リーダーシップ」、「評価、マネジメント」ばかりを質問すると推測されます。実際、アートプランにおいて受験者の方からお聞きしたところでは、(b) の試問であった方が実にたくさんお見えでした。しかし、これは事前に受験申込書、筆記試験答案の全てを詳細に読み、検討した結果に基づいての試験委員の判断ですので、その判断に従うのが受験者の基本的方針となります。したがって、受験準備段階では、(a)〜(c) のどの諮問方針であっても対応できるように十分な準備を行うことが必要と思われます。
5.5 補足
5.5.1 基準文書
2019 年度以降は
5.3 に示すように「 技術士としての実務能力」(
「技術士試験の概要」の 2、2、(2))についての口頭試験が何らの基準文書(
5.3.1)もないまま実施されています。この点は近い将来にあるいは改善されるのではないかと推測されます。
5.5.2 受験資格の確認
口頭試験においては次の (a) を判定することが欠かせません。
(a) 受験者が技術士第二次試験受験資格(
「技術士法」第 6 条第 2 項)を有しているか否か
この判定のためには、少なくとも、次の (ア)〜(ウ) に他人の経歴を自分の経歴であるかのように記入した箇所(つまり、虚偽記載)がないかどうかを確認しなければなりません。
(ア) 受験部門、選択科目、専門とする事項
(イ) 業務経歴票
(ウ) 業務内容の詳細
しかし、口頭試験委員が
5.4 の「試問方針 2」を採用した場合は、(ア)〜(ウ) のいずれについても試問は皆無です。つまり、(ア)〜(ウ) の記入内容について何らの確認をすることなく、(ア)〜(ウ) の記入内容には虚偽記載は一切ないと口頭試験において認めることになります。
上記 (ア)〜(ウ) について口頭試験で試問されないのは受験者の側から見ると楽ではありますがいささか拍子抜けの感さえしますし、(ア)〜(ウ) の確認は (a) の判定を行うためには欠かせません。この点も近い将来にあるいは改善されるのではないかと推測されます。
6. 「技術者倫理」、「継続研さん」への対応
6.1 独立した評価項目
「技術士試験の概要」の 3 は技術者倫理、継続研さんのそれぞれについて他から独立した項目として合否判定を行うとしている(2 第二次試験、2.口頭試験)ため、技術者倫理、継続研さん以外が如何に優れていようとも技術者倫理又は継続研さんのいずれかが 60 % 未満であるとそれだけで口頭試験不合格となるので注意が必要です。
6.2 技術者倫理
技術者倫理については、次の3つの基準文書を参考として十分に理解しておきます。
(ア)「
技術士法」第 4 章
(イ)
公益通報者保護法
(ウ)
技術士倫理綱領
特に、技術士にとって技術者倫理とは何か、秘密保持義務と公益確保の責務のいずれを優先させるべきか、その法的根拠は何か、いずれを優先させるかの選択を迫られた経験とそのときに取った処置は何か、身近に起こった技術者倫理に反する行為の例と今後同様のことが起きないようにするための対策は何か、身近に起こった信用失墜行為の例と今後同様のことが起きないようにするための対策は何かなどの質問が予想されるので、これらについて整理しておきます。
6.3 継続研さん
継続研さんについては、次の2つの基準文書を参考として十分に理解しておきます。
(ア)
技術士 CPD(継続研鑚)ガイドライン
(イ)「
技術士法」第 47 条の二
特に、どのように継続研さんを行っているか、今後の改善点は何かなどの質問が予想されるので、技術士 CPD に相当する継続研さんを日頃から実行して実行結果をまとめておきます。
6.4 技術士法
「技術士法」については基本的には第一次試験で出題されることとなり口頭試験では同法のうち技術者倫理、継続研さんに関する部分以外は問われなくなったようです。しかし、同法は技術士制度の根幹をなす法律ですので、当然ながら、その全体(特に、第 1 条〜第 3 条、第 32 条、第 36 条、第 44 条〜第 47 条の二、第 59 条、第 62 条)を口頭試験前に再度よく理解し直しておかなければならないと思われます。
7. 口頭試験の全般的留意点
7.1十分な資質を有することの提示
一般に、口頭試験というものは個々の質問に対する解が完全であるかどうかを採点する試験ではなく合格とするに相応しい人物であるかどうかを印象的に判断する試験なので、質問される以前に自ら進んで、自分が合格となるに相応しい資質を有していることを十分に示さなければなりません。
これは技術士試験においても同じであり、個々の質問に対する解を述べるにあたっては、単に解を知っていることを示すだけではなく、その解を説得力高く示すことができること、その解の周辺知識も広く有していること、この口頭試験の場において解の提示を大いに友好的な雰囲気の中で行うことができることなど、技術士に必要な資質を十分に有していることを自ら示してよく理解してもらうことが重要と思われます。
7.2 注意を要する質問
7.2.1 最初の数問
試問は
「総監口頭」の1.1.1、(3) の (b) のように行われます。(b)、(ア) のうちでは、試験委員はいちばん大きな問題点であると考える事項についてまず最初に質問し、その解答が合格であれば 2 番目に大きな問題点について質問し、その解答が合格であれば.....、というふうに口頭試験を進めます。最も小さな問題点から順に質問する試験委員はいません。したがって、(b)、(ア) の最初の数問にうまく答えられなかった場合は不合格になる可能性が高いので、最初の数問には特に注意して十分な解答をするのがよいと思われます。
7.2.2 記述内容を離れての質問
試験委員が「お書きになったことから少し離れますが、○○はどうでしょうか。」などのように受験者が書いたこととは関係が薄いことを前置きして質問することがあります。通常はそのようなことを質問する必要はないので、そのような前置きをして質問された場合は「あなたの場合はその「○○」が原因で不合格になる可能性があるからよく考えて解答せよ。」と試験委員が思っているということです。したがって、その「○○」の真意をよく見極めてこれに十分な解答をすることが大切と思われます。
7.2.3 同じ質問
試験委員が「そうですかねえ。」、「そこのところなんですがね。」などと言って同じ質問又は類似の質問を 2 度、 3 度と繰り返して尋ねる場合は、「私の質問の意味を全く理解していない、今のままでは不合格になる可能性が高いのでもう 1 度よく考えて解答せよ。」と試験委員が思っているということです。そうでなければ同じ又は類似の質問を繰り返して尋ねる訳がありません。したがって、同じ又は類似の質問を 2 度、3 度と繰り返して尋ねられた場合は、それまでの解答内容と似たことをどんなに深く掘り下げて詳しく解答しても試験委員が満足しないことは明らかですので、その同じ又は類似の質問の共通点をよく見極めてその共通点に対してそれまでの解答内容とは大きく異なる観点から大きく異なる内容を解答します。この十分な切り替えが大切と思われます。
7.2.4 逆質問
試験委員が発する質問の意味、意図を理解できない場合がありますが、その場合は理解できないまま解答すると間違った解答をする可能性が高いので、質問の意味、意図を逆質問して確認するのがよいと思われます。その場合、どこまで分かってどこから分からないのかが試験委員によく伝わるように逆質問するのがよいと思われます。例えば、「設問の業務ではどのようなインセンティブが予想されますか。」との質問に対しては、「すみません。インセンティブの意味は分かりますが、インセンティブには多くの種類のものがありその発信源も関係多方面があると思いますが、どのようなインセンティブをお考えでしょうか。」などのように逆質問するのがよいと思われます。また、逆質問の回数はできるだけ 1 回、多くても 2 回までとするのがよいと思われます。
7.3 詳細事項の事前確認
7.3.1 詳細事項事前確認の必要性
試験委員によってはかなり突っ込んで質問されるようですので、次の
7.3.2〜
7.3.5 のような詳細事項も事前によく確認しておいた方が無難と思われます。
7.3.2 科学技術・学術審議会
(1)「
科学技術・学術審議会令」は科学技術・学術審議会の委員数を「30 名以内」としており(第 1 条)、現時点での実態として同委員数は 30 名である(
こちら)。
(2)
同令 は、科学技術・学術審議会の委員の任命権者は文部科学大臣であるとしている(第 2 条)。
(3)
同令 は、科学技術・審議会に技術士分科会を置き、技術士分科会の委員の指名権者は文部科学大臣であるとしている(第5条、第2条)。
(4)
同令 は、技術士分科会の所掌事務は
一 技術士制度に関する重要事項を調査審議すること。
二 技術士法の規定により審議会の権限に属させられた事項を処理すること。
の 2 つであるとしている(第 5 条)。
(5) 技術士分科会の委員数を規定した文書は存在せず、現時点での実態として同委員数は 3 名である(
こちら)。ただし、これ以外に、臨時委員が 19 名おり(
こちら)、専門委員が若干名いる。
7.3.3 刑事罰
(1)「
技術士法」は、技術士に対する刑事罰としては、技術士の秘密保持義務違反(1 年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金(第 59 条))、技術士の名称詐称(30 万円以下の罰金(第 62 条))の 2 つのみを規定している。一般に刑事罰は罪の重さに比例して重くなるので、同法は技術士の最も重い罪は秘密保持義務違反であり、次に重い罪は名称詐称であり、それ以外には技術士としての犯罪はないとしていることが分かる。
(2)
同法が規定する刑事罰のうちで最も重い上位 3 つは、次の (a)〜(c) でありいずれも秘密保持義務違反に関するものである。
(a) 技術士に対して、1 年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金(第 59 条)。
(b) 指定試験機関(つまり、日本技術士会)に対して、1 年以下の懲役又は 30 万円以下の罰金(第 60 条)。
(c) 試験委員に対して、1 年以下の懲役又は 30 万円以下の罰金(第 60 条)。
したがって、同法が規定する刑事罰のうちで最も重い刑事罰は技術士に対するそれである。
(3) 我国の法律は技術士以外の様々の資格保有者についても秘密保持義務と同違反に対する刑事罰を規定しているが、技術士に対する上記 (2)、(a) の刑事罰は技術士以外の資格保有者に対する刑事罰に比べるとかなり重いものである。例えば、弁護士、医師の秘密保持義務違反は、6 カ月以下の懲役又は 10 万円以下の罰金であり(「
刑法」第 134 条)、技術士の秘密保持義務違反に比べると格段に軽い。技術士にこのような重い刑事罰を科しているのは、弁護士の場合は個人が発注した業務も相当数行い医師の場合はほぼ個人が発注した業務のみ行うため秘密漏洩をした場合に発注者が被る損害額が平均的に見ればさほど高額ではないが、技術士の場合はほぼ例外なく官公庁、企業が発注した業務を行うため秘密漏洩をした場合に発注者が被る損害額が著しく高額となる可能性が高いことによるのではないかと推測される。
7.3.4 技術士の名称
(1)「
英文表記について」(日本技術士会)は、「技術士」の英語名称が Professional Engineerであり、「技術士補」のそれが Associate Professional Engineer であるとしている。
(2)「
世界各国の技術者資格制度の概要」(技術士審議会、2000)は、日本の技術士にほぼ相当する外国の技術者資格の名称は、英国のそれが Chartered Engineer、オーストラリアのそれが Chartered Professional Engineer、米国のそれが Professional Engineer であるとしている。
7.3.5 相互承認
(1)「
技術士法施行規則」は、APEC エンジニア相互承認プロジェクトによって日本が相互承認の協定を締結しているのはオーストラリア 1 国のみであり、日本が相互承認しているオーストラリアの資格はチャータード・プロフェッショナル・エンジニアであるとしている(第 13 条の 2 第 1 項)。
(2)「
APECエンジニアとは」(日本技術士会)は、オーストラリアが相互承認している日本の資格は技術士と一級建築士であり、技術士と一級建築士がオーストラリアで相互承認されるためには当該技術者が APEC エンジニアに登録されていることが必要であり、APEC エンジニアとして登録できる分野はCivil、Structural、Geotechnical、Environmental、Mechanical、Electrical、Industrial、Mining、Chemical、Information、Bioの 11 分野であるとしている。
7.4 べからず 7 項目(NG 7 項目)とその回避
7.4.1 遅刻
遅刻は、誠意を疑われまた大幅に遅刻した場合は口頭試験が完了しないことになるので厳禁です。
交通機関の遅延、事件事故の発生など最悪の場合を考えて十二分の余裕を持って出発します。そのような最悪の場合でも確実に利用できる別の交通手段を使えば十分間に合う程度の距離以上の遠隔地に居住している場合は、前日は試験会場から遠くても徒歩 20 分程度以内の宿所に宿泊するのがよいと思われます。
当日は道に迷うと意外に時間がかかり気持ち的にも動揺するので、試験会場までの道順は前日のうちに実際に歩いて確かめておきます。以前に口頭試験で行ったことのある会場でも、再度歩いて確認しておきます。
試験会場には少なくとも 1 時間程度前には着いて、受付を済ませて控え室で待機します。控え室ではなく近くの喫茶店など別の場所で待機するのは自由ですが、他の場所で待機する場合は不測の事態を考慮して自分の面接開始時刻の少なくとも20分前には控え室に戻るようにします。
試験室に入るように名前を呼ばれたときに余裕を持って対応できるように、少なくとも20分前には身だしなみのチェック、トイレなども含めて全ての準備を終えて控え室で待機します。
遅刻することは厳禁です。程度が軽ければ若干の減点で済みますが、ひどければまず間違いなく不合格になると思われます。
7.4.2 合格を求めない態度
多くの受験者は受験動機を試問されるようです。
試問されたとき、「合格するかどうか試しに受験してみた。」、「勉強の一環として受験した。」、「資格はできるだけ取っておきたい。」、「今年だめなら来年また受験する。」、「試験委員のお手並み拝見。」などのような合格を積極的には求めない解答をした、あるいは解答しないまでもこのような態度、雰囲気を漂わせた受験者は、たとえ他の全ての口頭試験の解答内容が極めて優秀でも多くの場合に不合格になるようです。
逆に、「資格がないと官公庁業務を受注できない。」、「出入りの業者の多くが技術士を持っているので自分が持ってないと対等に渡り合えない。」、「部下が合格していっているので上司としての立場がない。」、「来年別会社へ就職を考えているのでどうしても今年欲しい。」、「会社の受注業務に○○が多いのでそれを担当できるようになるために 2 科目めとして選択科目○○の資格が欲しい。」、「受注拡大のために選択科目○○に合格するように上司から指示された。3 科目めではあるが上司の期待に応えたい。」などの気持をはっきりと試験委員に伝えることができれば、受験動機が理由で不合格になることはないようです。
したがって、口頭試験の当日は、この気持を、解答の内容、受け答えの態度、立ち居振る舞い、服装(スーツが基本です。サンダル履きなど筆記試験のときのようなくだけた服装は論外です。)などの全てにおいて、はっきりと表します。試験委員はそのような積極的な態度を見て「この人なら技術士にしても安心だ。」と思われるでしょう。
つまり、受験動機が何であるかは口頭試験項目にも合否決定基準にも含まれないと
「技術士試験の概要」の 2 はしてはいますが、技術士を名乗るためには登録が必要でありまた文部科学大臣が登録取り消しの権限を有していることを勘案すれば、受験動機が何であるかは技術士試験の合否に重大な影響を与えることは明らかであると思われます。つまり、受験動機が何であるかは合否決定基準として示すことさえ憚られる根幹重要事項であると思われます。
合格を積極的には求めない解答、態度、雰囲気は、表明することは勿論漂わせることも厳禁です。これを行うとまず間違いなく不合格になると思われます。
7.4.3 試験委員との喧嘩
口頭試験においては「○○は、環境保全の点からどうですかね。」、「でも、問題文には○○と書いてありますよね。」などと疑問を投げかけられることがまま起きます。
そのような場合はとりあえず自分の考えを説明しますが、もし同じ内容を重ねて質問されるなど試験委員が強く疑問に思っていることが明らかな場合は、それがいかに技術者としての自分の信念に基づいた答案であっても、あるいはその分野に関する限りは明らかに自分の方が知識、経験ともに格段に優れていると思える場合であっても、一歩下がって、例えば「仰るとおりです。題意を取り違えていました。」などのように試験委員の意見を尊重することが大切です。
そもそも絶対的に正しい解答などというものがある訳もないですし、試験委員はそれなりに経験を積んだ方ですからそのような方が信念を持って反論して来られた場合にはその反論には技術者として十分な敬意を払って然るべきです。間違っても、自分の解答の正当性を頑迷に主張すること(簡単に言うと、試験委員との喧嘩)はしてはなりません。
また、次の (ア)、(イ) の 2 つについては、反論、批判はもちろん質問もしてはなりません。
(ア) 技術士制度
(イ) 諮問の進め方、試験委員から受験者への注意・指示事項など、試験委員に決定権がある事項
試験委員との喧嘩は厳禁です。これを行うとまず間違いなく不合格になると思われます。
7.4.4 知らないとの明言
「○○を知っていますか。」、「○○を読んだことがありますか。」などと試問されることがありますが、このような試問は「知っていて当然だ。」、「読んだことがないのなら減点(又は、不合格)だ。」と試験委員が思っている場合の試問です。したがって、「知らない。」、「読んだことがない。」などと解答すると減点(又は、不合格)となります。
しかし、細かい事項(例えば、
7.3 のような事項)は覚えてもすぐ忘れるし、印象の薄い文献だと勉強したかどうかの記憶さえなくなっていることもあるし、特定の文献の中の特定の事項だとその文献の中の他の事項は概ね覚えていてもその事項に限っては忘れていることもあります。さらに、口頭試験では極度に緊張しているので、たとえ試験委員が普通に、優しく尋ねてくれたとしても、突然の質問に狼狽えて瞬時には思い出せないこともあります。また、「知っていて当然だ。」、「読んだことがないのなら減点(又は、不合格)だ。」と試験委員が思うほどの事柄を、普通の受験者であれば、知らない、読んだことがないなどということがあるはずがありません。これは
7.4.5 とは全く異なります。
また、
「技術士試験の概要」の 2 は技術者倫理、継続研さんはそれぞれについて他から独立した項目として合否判定を行うとしているので、技術者倫理、継続研さん以外が如何に優れていようとも技術者倫理又は継続研さんのいずれかが 60 % 未満であるとそれだけで口頭試験不合格となります。また、技術者倫理、継続研さんには基準文書(
6.2、
6.3)があります。
したがって、上記のような試問に対して思い出せない場合は、「すみません。忘れました。帰ったらすぐ見直しておきます。」、「以前に読みましたが思い出せません。しっかり覚え直します。」などのように解答します。
知らない、読んだことがないと明言することは、程度問題であり、程度が軽ければ若干の減点で済みますがひどければまず間違いなく不合格になると思われます。
7.4.5 黙り込み
質問の意味を逆質問で問い返したがそれへの回答を聞いても依然として質問の意味が分からない、意味は分かったが解答する内容が全く思い浮かばないなど解答に窮する場合もときにあります。そのような場合、もし何も解答しなければ、恐らくですが、二の矢、三の矢が飛んで来て大きく減点されると思われます。したがって、そのような場合でも解答する内容、方向を瞬時に定めてその内容、方向で淀みなくかつ試験委員が「分かりました。結構です。」と言って遮るまで話し続けます。瞬時に話し始めることと制止されるまで話し続けることが大切です。そのように解答すれば、あるいはその内容で正解かもしれませんし、試験委員が解答の方向が的外れだと思えば少しは追加の質問をして解答の方向を示してくれるかもしれません。何も思い浮かばないからといって解答しなければまず間違いなく大きく減点されるのですから、何でもいいので何か自分の心にあることを、理路整然と、誠心誠意、話すことが大切です。黙ってしまうことは決してしてはならないと思われます。
しかし、そのような解答さえもできない、完全にお手上げだという場合もあるかもしれません。そのような場合は、「すみません。分かりません。」と言ってあっさりと負けを認めるしかありません。「分かりません。」の返事もすぐ返します。
もし受験者が黙り込むと、試験委員は「一体何をしているのか。質問の意味を理解はできたのか。何か言え。先へ進めないではないか。」といらいらが募るので、それ以降の質問が手厳しいものになります。黙り込むことは何もよい結果をもたらしません。話し続ける場合も負けを認める場合も、返事は瞬時に返します。
黙り込むことは、程度問題であり、程度が軽ければ若干の減点で済みますがひどければ大きく減点されると思われます。
7.4.6 信用してないという態度
口頭試験の席上において客先名称など固有名詞を用いて解答する、出願中の特許の内容を詳細に説明するなど通常であれば技術士の守秘義務に違反する行為はしてはならないと思うかもしれません。しかし、技術士の守秘義務よりは軽いですが試験委員には一定の守秘義務が課せられている(違反すると 1 年以下の懲役又は 30 万円以下の罰金(「
技術士法」第 60 条))ので、上記のような通常であれば技術士の守秘義務違反となる行為であっても口頭試験の席上で行うことには全く問題ありません。問題ないだけでなく、技術士の守秘義務に違反するのでこれらの行為はできないのような発言や態度は、「一体俺を誰だと思っているのだ。」と試験委員を不快にさせるので、慎まなければなりません。
これに限らず試験委員に対しては全幅の信頼を置いていることをはっきりと示します。
信用していないという態度をとることは、程度問題であり、程度が軽ければ若干の減点で済みますがひどければ大きく減点されると思われます。
7.4.7 不快にさせる仕草
解答するときに試験委員から目をそらす、椅子の背にもたれかかる、必要以上に大きな仕草を交える、貧乏揺すりをするなどの仕草は試験委員を不快にさせるので、慎まなければなりません。
不快にさせる仕草は、程度問題であり、程度が軽ければ若干の減点で済みますがひどければ大きく減点されると思われます。
7.4.8 まとめ
上記
7.4.1〜
7.4.4 は、これをするとまず間違いなく不合格になります。「べからずワースト4」です。厳禁です。
上記
7.4.5〜
7.4.7 は、これをしたからといって必ず不合格になるものではありませんがそれなりに減点されるので注意が必要です。
7.5 模擬口頭試験受講と自力準備
7.5.1 模擬口頭試験受講
最近は、技術士がいる組織のいくつかでは自組織内で模擬口頭試験(模擬面接)を行っているようですし、模擬口頭試験を自組織外の受験予定者に対して有料、無料で実施する組織もいくつかあるようです。したがって、もし可能であれば模擬口頭試験を受けておくのがよいことは
「第二次申込書」の 2.2、(3)、(c)、(ス) と同様です。
模擬口頭試験は主に次の (1)、(2) の 2 つの目的で行われます。目的ではなかったが模擬口頭試験を受けた結果として (3) を達成したという方もまれにお見えです。
(1) 本番で上がらないために
口頭試験を受けたことのない方は本番の口頭試験では相当緊張すると予想されますので、模擬口頭試験を受けておけば雰囲気に慣れて本番での緊張感を和らげることができると推測されます。
(2) 口頭試験で想定外の質問をされないために
本番の口頭試験で試験委員がどのような質問をするかは推測しがたい面もあるので、技術士の方に業務経歴、業務詳細、記述式問題解答復元文の 3 つを見ていただいて、予測される質問を挙げていただけば、本番で受ける想定外の質問の数を少なくすることができると推測されます。
(3) 新しい知識を得るために
模擬口頭試験の席上で講師の方から新しい知識を講義していただいて参考になったという受験者の方が、お聞きした範囲で若干お見えです。
7.5.2 自力準備
(1) 本番で上がらないために
しかし、もし模擬口頭試験を
7.5.1、(1) の目的のために受講しようと考えているのであれば、上がるのは何を聞かれるのだろうという不安感が大きな原因の 1 つですので、この不安感を払拭することが有効であると思われます。
そのためには、「お入りください。」、「荷物は○○へ置いてください。」、「どうぞお座りください。」などから始まる自分で作成した想定 Q&A の Q の部分を録音しておき、それを 1 個ずつ再生して、目の前にいる試験委員に大きな声ではっきり答えるという練習をすれば、技術士の方の力をお借りしなくても不安感を大きく払拭することができます。大切なのは、質問を再生すること、実際に大きな声を出してはっきりと答えることの 2 つです。これによって、口頭試験の雰囲気を作り出し、それに慣れ、想定 Q&A のうちの A の内容の不備な点に気づき、抑揚・目線など話し方の基本を会得するなどのことができます。つまり、口頭試験の進め方全般を習得することができます。それが不安感払拭のための大きな力になると思われます。
(2) 口頭試験で想定外の質問をされないために
もし模擬口頭試験を
7.5.1、(2) の目的のために受講しようと考えているのであれば、自分で質問を考えた方が遙かに様々な質問を作ることができるので有効であると思われます。これは、模擬口頭試験は限られた時間の中でしかも御担当の技術士の方が御自分の専門、経験、興味の中心などに基づいて重要と思われることを質問してくださるのみですので、全てについて完璧な視点から質問していただくことを期待するのはそもそも無理だからです。
そのためには、自分が口頭試験委員になったと考え、この受験者(つまり、自分)が技術士に相応しいかどうかを判定しなければならない立場になったと考えます。まだ技術士でもないのに口頭試験委員になったなどと考えられる訳がないとお思いかもしれませんが、今回技術士試験に合格すればその瞬間からは技術士として後輩を指導することになる訳ですから、自信を持って、口頭試験委員になったと考えます。そして、次の (a)〜(d) のような観点から質問を作ります。
(a) 業務経歴
(ア) 技術部門、選択科目、専門とする事項に合致しているか。
(b) 業務詳細
(ア) 技術部門、選択科目、専門とする事項に合致しているか。
(エ) 自己技量成果は技術士に相応しいレベルであるか。
(オ) 受験者にとって不都合な事実を、言い逃れ、ごまかし、隠蔽している可能性のある箇所はないか。
(c) 記述式問題答案
(イ) 明らかな技術的誤りはないか。
(ウ) 明らかな技術的不足事項はないか。
(エ) 論旨展開に飛躍、誤りはないか。
(オ) 日本語として曖昧さ、文法的誤りはないか。
(カ) 日本語として分かりやすいか。
(d) 基本的視点
(ア) もし何かの合理的な理由があってこの受験者をどうしても不合格にしなければならないとしたら、この受験申込書のどこをどのようにつついてやるか。
(イ) 同じく、この業務詳細のどこをどのようにつついてやるか。
(ウ) 同じく、この記述式問題答案のどこをどのようにつついてやるか。
このようにして細部に亘ってよくよく自問自答すれば、問題点は自ずと見えてきますし、そのようにして多くの点について自分でよく吟味しておいた方が口頭試験で試験委員から思いがけない質問をされたときに狼狽えないで対応できるのでずっと有効です。
また、インターネットで「技術士 口頭試験 質問」などで検索すれば想定質問や実際に尋ねられた質問をたくさんの方が公開しておられますのでそのようなものを参考にして、また
3.3、
3.4、
4.2、
5 なども参考にして、上記 (a)〜(d) を詰めます。
上記 (a)〜(d) で作成した質問に対する解答を作成し、その解答についてまた (a)〜(d) による質問を行い、その質問に対する解答をまた作成し、.....、と繰り返します。最終的に、反論を許さない完璧な解答を作ります。
技術士の方に見ていただくことは、問題点を洗い出すよいきっかけにはなりますが自分で十分に吟味することには遥かに及びません。自分で十分に吟味することだけが漏れのないかつ抜本的な改善を可能にすると思われます。
(3) 新しい知識を得るために
もし模擬口頭試験を
7.5.1、(3) の目的のために受講しようと考えているのであれば、模擬口頭試験を受けるのではなく自分で資料を紐解いて勉強する方がはるかに効率的であると思われます。
したがって、模擬口頭試験を受けることができないと嘆く必要はありませんし、またそれを受けたからと言って安心するのは早計です。口頭試験の準備はあくまで自分の力で十分に行うのが最良と思われます。
7.6 口頭試験内容の復元
口頭試験が終わると後は合格発表を待つだけですが、万一不合格であった場合は口頭試験のどこが原因で不合格になったのかを分析しなければなりません。また、合格であった場合は社内の後輩などに口頭試験の内容を知らせてあげることも必要です。したがって、口頭試験が終わったら忘れないうちにできるだけ早く(遅くても 1 週間程度以内に)、口頭試験内容を復元することが大切と思われます。
8. 総合技術監理部門講座の勧め
「総合技術監理部門講座 (2)択一式問題勉強法」、
「総合技術監理部門講座 (3)記述式問題の書き方」、
「総監口頭」 には総監の試験がどのようなものであるか、受験上の留意点は何かなどが記してあるので、総監以外の部門の第二次試験を受験するときにはこれらを見る必要は必ずしもありません。しかし、第二次試験に合格された暁には総監を受験する立場になるわけですしこれらに記されているもののうちには第二次試験受験の参考になる事項も少なくありません。したがって、これらの項目の全体をざっとでよいので一読しておかれることをお勧めします。
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